[書評] 未来のことは未来の私にまかせよう

この記事の所要時間: 412

2014年夏。
初めて自分の番組を持ち、ようやくにして夢をかなえて数ヶ月、美人ニュースキャスターは友人たちとの会食中に倒れる。
 

それは突然やってきた。

「ご本人にはつらい話ですが……がんです」

 
フリーアナウンサーの著者は、かれこれ3年も健康診断をサボっていた。そして医師から胃がんは3年かかって現在の状態になったと告げられる。また、生命保険には入っていたけれど、自分はまだ若いからとがん保険の加入を見送っていた。

保険と健診をしっかりやっておけばよかったというのは、告知されてからずっと感じていることだ。

人生は何が起きるかわからない。自分で後悔しない方法を見つけるべきだったと改めて思う。

 
精密検査の結果、内視鏡で腫瘍を切除などという生易しいものではなく、開腹して胃を全摘しなければならないほどの深刻な状態(ステージ3)と発覚する。
そして、手術が成功した後で、著者は自身の内面に底流するものを、自分自身の言葉でつづってゆく…

両親が来てくれて、少し、ほっとした。もう私一人ではない。

両親のありがたさを知った。友だちから愛されていることも知った。自分がやってきたことは間違いではなかったと思えた。それだけで幸せだ。

兄には本当に感謝の気持ちしかない。私ががんを告知されてから、毎日かかさず励ましの電話をくれた。告知一週間後に
「仕事ができなくなるかもしれない」
と不安を訴える私に、
「悪いけど、奈々の仕事のことなんて俺にとってはどうでもいい。奈々が生きていてくれれば何でもいい。生きていれば何でもできるんだから」
と兄は言った。確かにそうだと思った。今でも忘れられない一言だ。

また恋だってしたい。結婚もしたい。

仕事も結婚もしたい。親孝行もしたい。しなければいけない。祈りが届きますように。

今日は久しぶりに一人で、とってもさみしい。

結婚したほうがいいんじゃない?と言われて、そうだなあと思った。でも、病気のことを理解してくれる人でないとダメだし、病気のことで相手に迷惑をかけてしまう。それでもいいと言ってくれる人がいるといいけど……。もちろんそれよりもまずは私が生き抜くことだ……。でも、闘病中、恋もしていたい。そうしたら楽しそうだな。子供も欲しくなった。とにかく一日でも長生きしたい。

最近、結婚したいと心の底から思う。これまで仕事優先で結婚に全く興味なかった。でも、こうなって、心ある人と心の通った恋愛、結婚をしたいと願うようになった。また、恋ができるかな……。

仕事に復帰して、もう一度花を咲かせたい。結婚して、できるなら子供も産んで父母に親孝行がしたい。
毎日いろんな波が押し寄せてくるけれど、冷静に大らかに……。

三十二歳は闘いの一年だけど、そんな中にも私が私らしく生きられる一年になるように、祈る……。

毎日を大切にしたい。会いたい人に会って、やりたいことをやって健やかに生きよう。大切な時間だから。でも、父や母のためにも何としてでも生き延びないといけない。私にまだやるべきことがあるのなら、もう一度生きるチャンスを与えてほしい。

 
そして、著者は年明けの特番で復帰。元気な姿を視聴者に見せるところで本書は終わっているのだが、その後の実際の物語は、報道等で知られている通り、著者が9月に亡くなるといういたたまれない結末を迎えている。
 
私事にわたるが、著者は僕の大学の同じ学部学科の同窓にあたり、テレビを殆ど見ない生活なので著者のニュース番組を見たことはなかったのだが、がん罹患が発覚した頃に、同窓の若い友人から
「ナナちゃんは私の同期だから、ミズノさんの後輩でもあるんだよ。彼女が元気に復帰できるようにお祈りしてほしい」
と告げられてから気にかけていた。
 
人の死亡率は100%であって、人生の最終ページがいつなのかが分からないだけというのは常日頃思っていることで、人が死ぬことでいちいち驚いたり悲しんだりしないように、僕は人生のある時期から自分に言い聞かせてきていたんだけど、著者の死後に本書を開いてページをめくるうちに、涙が止まらなかった。神がサイコロを振らないのだとすれば、神は彼女に何をしたかったというんだろう。
 
本書を読み終わってふと思ったのは、彼女がみまかった後で、家族は友人は視聴者は、どうやって彼女のことを忘れずにいられるんだろうかということ。
 
土砂降りのような取材をしてニュースを報じたあと、その話題の多くが後になって顧みられることがないのは彼女自身がいちばん知っていたことのはずだけれど、残された者たちは、彼女の不在に真剣に向き合って、彼女がここにいたことを語り継ぐ必要があると強く思った。
 
合 掌
 
(初出:n-mizuno.com

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n-mizuno
1976年東京生まれ。小学校から12年間男子校で過ごした後、ほぼ女子校状態の大学に進学。就職してからは、アフリカ、ロシア、モンゴル、東南アジアを駆けずり回って海外営業にいそしむ。自称・日仏英伊クアッドリンガル。

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1976年東京生まれ。小学校から12年間男子校で過ごした後、ほぼ女子校状態の大学に進学。就職してからは、アフリカ、ロシア、モンゴル、東南アジアを駆けずり回って海外営業にいそしむ。自称・日仏英伊クアッドリンガル。

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